より良い生活を送るために利用できる社会保障制度
社会保障制度を活用することで、医療費助成、各種福祉サービス、所得保障などの利用が可能になります。特に近年では障害者手帳を利用した障害者枠での就職の重要性が増しています。また、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業や移行期医療支援センター設置など、ここ数年の間に国や自治体が推進している新しい事業もあります。あなたがこれからよりよい生活を送っていくために、これらの制度の活用を考えてみましょう。
医療費助成
先天性心疾患患者さんが利用することが多い医療費助成制度を図にまとめました。医療費助成制度には、国が実施するものと、各自治体が実施するものがありますが、まずは国が実施するものから利用し、その上で各自治体が実施するものを併用するのがルールです。まず国の制度を利用して、その後に自治体の制度を利用することで、自治体への負担を減らすことができます。医療費助成制度を維持し守っていくことは、これから医療を必要とする全ての人たちを守ることにつながります。国の制度から活用するという原則を守り、いたずらに各自治体の負担を増やしてしまわないよう、ご理解とご協力をお願いします。
20歳まで
例えば1歳の子どもが手術を受け、医療費が300万円かかったとします。その際、国の制度である加入している公的医療保険が適用され、小学生未満は2割負担ですので、自己負担額は60万円となり、さらに高額療養費制度の限度額までは医療保険の給付が受けられます。さらに、18歳未満の手術については、これも国の医療費助成制度である自立支援医療(育成医療)が適用されます。自立支援医療(育成医療)は毎月の医療費自己負担額の負担上限額が決まっており、これにより自己負担額は一般的な所得層で5千円~1万円に軽減されます(上限額は医療保険上の世帯の所得により変わります)。国が実施するこれらの制度を利用した上で、各自治体が実施する乳幼児・こども医療費助成を併用します。自治体によって乳幼児・こども医療費助成の対象年齢、対象となる世帯の所得が異なりますが、対象となれば、自己負担額をほぼ無料にまで軽減することができます。
この他の制度として、国が実施する小児慢性特定疾病の医療費助成、難病医療費助成、自治体が実施する重度心身障害(児)者医療費助成制度などがあります。これらの制度の利用には、それぞれ小児慢性特定疾病や難病の重症度による認定、障害者手帳の取得などが必要となります。手続きを必要とするこれらの制度は、乳幼児・こども医療費助成の対象となる子どものうちは不要に思えるかもしれません。しかし、乳幼児・こども医療費助成の対象年齢を過ぎた後、特に20歳以降では、これらの制度が大きな意味を持ちます。
また、先天性心疾患に限らず、生まれつきの病気では発達遅延を伴うことも少なくありません。身体の問題と発達遅延の両方で障害者手帳を持っている場合には、「重複障害」として重度心身障害(児)者医療費助成制度の対象になり、医療費が軽減されることがあります。
20歳以降では、それ以前に比べて利用できる制度が限られてきます。まず、国の制度である健康保険の自己負担は6歳から65歳までは3割となります。さらに、自立支援医療(育成医療)は18歳未満の手術が対象であるため利用できなくなります。代わりに18歳以降では自立支援医療(更生医療)が利用可能ですが、この制度の利用には障害者手帳取得が条件となっています。各自治体が実施する乳幼児・こども医療費助成についても、20歳以上を対象に含めている自治体はほとんどなく、利用することができません。
20歳以降で重要となる医療費助成制度は、国が実施する高額療養費制度と難病医療費助成、各自治体が実施する重度心身障害(児)者医療費助成制度です。20歳以降の手術などにより、医療費自己負担額が高額となった場合には、高額療養費制度を利用することで毎月の自己負担額を約9万円まで減らすことができます。また、難病と認定され難病医療費助成制度を利用できれば、毎月の自己負担上限額は一般的な所得層で1~2万円程度になります(上限額は所得により変わります)。また、障害者手帳を取得し、自治体の重度心身障害(児)者医療費助成制度を利用できれば、無料またはわずかな自己負担となります(上限額は自治体、手帳級などにより変わります)。こどもの頃は、乳幼児・こども医療費助成などがあったため、必要性が低いようにも思われた難病の認定、障害者手帳の取得が、成人後には大きな意味を持ってきます。手続きは成人後も可能ですので、活用については主治医とよく話し合ってみてください。
2019年3月
横浜市立大学看護学専攻がん・先端成人看護学 准教授
落合 亮太